当サイト「スイスピ」宛にいただくお問合せのなかに、

水素吸入器で、水素を発生させるための電極にステンレスを使用している場合、有害物質が溶け出して毒ガスを吸うことになるので絶対に避けるべき!(チタン+プラチナの電極はOK)」という情報を見ました。
これは本当でしょうか?
という内容のお問合せがちょくちょくあります。
(あるユーチューバーさんが発信されている内容みたいですね。)
私もこの件についてはっきりしたことはわかっていなかったのですが、今回、この疑問についてクリアになったことがあったので、その内容についてシェアさせていただきたいと思います。
あるユーチューバーさんの主張|ステンレス電極の水素吸入器は避けるべき!
ステンレス電極が危険という主張については、私もお問合せをいただくまでは知らなかったので、まずはそれがどのような主張なのかを確認してみました。
主張の内容をまとめると、
- 水素吸入器の水素発生方法が電気分解の場合、金属の電極を使用する
- 電極の金属にステンレスを使用していると、クロムやニッケルなどの有害物質が溶け出す
- 有害物質がガスにも混じり「毒ガス」となるため、非常に危険
- 電極に使える安全な金属は、チタン+プラチナまたは金だけ
といった内容で、結論として「電極にステンレスを使用している水素吸入器は絶対避けるべき」とされています。

これがホントだとしたら、そりゃそう思うよね・・
疑問への回答|医療でも使用されている水素吸入器メーカーからの答え
私自身、この問題について詳しいことがわかっていなかったので、スイスピへの問い合わせがあるたびに明確なお答えができていなかったのですが・・
先日、ある水素吸入器メーカーさんで話をうかがった際に、この問題についての重要な知見が得られました。
そのメーカーさんとは、がん治療で成果をあげられていることで有名な『くまもと免疫統合医療クリニック』(赤木純児院長)でも使用されている水素吸入器「ハイセルベーターシリーズ」のメーカーである、株式会社ヘリックスジャパンさんです。
くまもと免疫統合医療クリニックの赤木院長は、水素ガス吸入をがん治療に組み入れた「水素ガス免疫療法」を開発され、がんの標準治療で見放されたステージ3からステージ4の多くのがん患者の人々にたいして目覚ましい成果をあげられています。
▼赤木純児院長の著書

▼赤木純児医師のくまもと免疫統合医療クリニックでも使用されている、ヘリックスジャパン社の「ハイセルベーターET-100」


詳しくはこのあと書きますが、実はこのハイセルベーターこそ『電極にステンレスを使用』していたのです。
株式会社ヘリックスジャパン本社を訪問し、代表に話を伺う
それでは株式会社ヘリックスジャパンさんに伺った内容について見ていきましょう。
当初、私はハイセルベーターの水素発生方法についての質問のメールを送ったのですが、なんと社の代表の方が直々にお話をしてくださるということになり、東京都千代田区九段南にあるヘリックスジャパン本社を訪問しました。
そして詳しい話を伺い、以下のことがわかったのです。
- ハイセルベーターは電気分解の電極にステンレスを使用している(!)
- 電極に使用する金属はチタンとステンレスを比較検討し、安全性の観点からステンレスを選んでいる(!)
- たしかに発生するガス中にクロムやニッケルは含まれるが、大気中に含まれる量よりもはるかに少ない(!)
(!)ばっかりですが、笑
それくらい新鮮な内容のお話で、実際の検証データや資料なども見せてもらいながら納得のいく説明をしていただけました。
その内容について、ひとつずつ詳しく見ていってみましょう。
❶ ハイセルベーターET-100は電気分解の電極にステンレスを使用している
まず、ヘリックスジャパン社の水素吸入器「ハイセルベーターET-100」では、電極にステンレスを使用されているとのこと。
ハイセルベーターといえば上記のようにがん治療で成果を上げている「水素ガス免疫療法」で使用されている水素吸入器なので、あのユーチューバーさんはこの実績ある水素吸入器を真っ向から否定してることになるんだな・・と驚きました。
ではなぜハイセルベーターET-100では電極にステンレスを使用しているのでしょう?
その答えもなかなか驚きの内容でした。
❷電極に使用する金属はチタンとステンレスを比較検討→より安全だという結果からステンレスを選んでいる
ハイセルベーターの電極にステンレスが使用されているのには明確な理由がありました。
実際の資料を見せていただいたのですが、電極に使用する金属を決定するために、実際にステンレスとチタンを使った結果どうなるのか、比較検証をされていたのです。
結果は以下の表のようになったそうです。
(発生したガスの中にどれくらい金属成分が含まれているかという検証です)

上の表からポイントとなる部分を抜き出すと、以下のようになります。
分析項目(mg/L) | ステンレス | チタン | |
---|---|---|---|
アルミニウム | 0.001未満 | 0.025 | チタンの方が25倍以上多い |
クロム | 0.001未満 | 0.001未満 | ステンレスとチタンは同レベル |
銅 | 0.025 | 0.21 | チタンの方が10倍近く多い |
鉄 | 0.002未満 | 0.011 | チタンの方が5倍多い |
ニッケル | 0.045 | 0.23 | チタンの方が5倍多い |
つまり、
- ステンレスよりもチタンのほうが、生成ガスに含まれる金属成分は多い
- 有害と指摘されている【クロム】は同等レベル、【ニッケル】はむしろチタンの方が多い
という結果だったのです。

どちらかというとチタンよりもステンレスのほうが安全性が高い、という結果だったんですね。
ヘリックスジャパン社では、この検証結果にもとづいて「チタンではなくステンレスを電極に使用している」とのことでした。

コストが安いからとか、発生する成分について無知だからというわけじゃなく、検証の結果あえてステンレスを選んでるわけね・・!
❸ チタン電極でもステンレス電極でも【クロム】【ニッケル】は含まれるが、空気中に含まれる量より少ない(!)
上記のように、電極がステンレスであれチタンであれ、発生するガスに【クロム】【ニッケル】といった金属成分は含まれています。
ではどちらも危険なのか?というと・・
実は発生するガス含まれる量は、空気中に含まれる【クロム】【ニッケル】よりもずっと少ない量だったのです。
▼こちらはステンレス電極を使用して検出されたクロムの量。(一般財団法人化学物質評価研究機構による測定値)

ステンレス電極を使用した場合、
1L中に2ng(2ナノグラム=10億分の2グラム)
これだけの濃度のクロムが含まれるわけですね。
クロム・ニッケルの量は大気中の方が多い
それに対し、屋外空気中に含まれる無機元素の濃度を調べた研究によると、
クロムの最高値:
1ml中に5ng=1L中に5000ng(東京都北区)
1ml中に7ng=1L中に7000ng(妙高市)
となっているんです。
測定条件が同じではないため単純比較はできないかもしれませんが、1L中に含まれるクロムの量で比べると、
2ナノグラム vs 5000〜7000ナノグラム
ということで、大気中のほうが断然多い結果になってるんですね。


なるほど・・空気中のほうが濃度が高いってことは、水素吸入器が特別危険ということでは決してないわけね。

そうだね・・
ヘリックスジャパン社から以上のようなデータを見せていただき、ユーチューバーさんの主張がまったく理にかなっていないということが明確になりました。


ちなみに以上の内容をご説明くださったヘリックスジャパン社の代表の方(有澤生晃社長/会長)は、

日本は健康寿命と平均寿命の差が10年もあって、死ぬ前に長い間苦しむ状況がある。この状況をなんとかしたい。
という志をもって、なんと80歳のとき(2015年)にヘリックスジャパン代表取締役に就任し、ハイセルベーターの製造販売を開始されたそうです。

このような思いのもとに事業をされているからこそ、今回ご紹介した「ステンレスとチタンの比較検証」など、本当にユーザーのために役立つ製品をつくるための努力を惜しまない姿勢につながってい
るのかな、と感じました。
混乱の背景は電解方式の違い:「PEM式」と「アルカリ水電解」の混同がある・・?
さて、ここまで「電極にステンレスを使用している水素吸入器メーカーの見解」をお伝えしましたが、さらに調べた結果、この「ステンレス電極は危険?」という話が広まった背景には、そもそも
- PEM式
- アルカリ水電解
という「2つのまったくことなる『水素の電気分解方式』が混同されている」という要因があるのではないか?というところに行き着きました。

ちなみに、先ほどのヘリックスジャパン社のハイセルベーターET100は「アルカリ水電解」のタイプです。
水素発生の方式:【PEM式】と【アルカリ水電解】で、電極に求められる性質が異なる
多くの水素吸入器は「水の電気分解」によって水素を発生させますが、その主な方式は上にあげた2つの方式、【PEM式】と【アルカリ水電解】に分けられます。
そしてそれぞれに必要とされる「電極」の性質は異なるんですね。
❶ PEM式では電極の周りが強酸性になる
PEM式の場合、その仕組み上、電極の周りの環境が「強酸性」となります。
参考:理化学研究所|酸性環境で駆動する非貴金属水電解触媒-固体高分子型(PEM)水電解を用いた水素製造へ-
そのため、電極には「強い酸性に耐えられる」という性質が求められ、その結果として、必然的に
耐腐食性のある「チタン+プラチナコーティング」
が電極に用いられています。

逆に言うと、PEM式の電極にステンレスが使われる可能性はほぼないといえます。
❷ アルカリ水電解では、電極周囲の環境が「PEM式ほど過酷ではない」
一方で、もうひとつの電解方式「アルカリ水電解」では、電極のまわりはアルカリ性となり、PEM式のような過酷な環境にはなりません。
そのため、一般的にチタンよりも耐腐食性が弱いとされるステンレスを利用することができます。
またアルカリ水電解の「アルカリ性環境」においては、チタンよりもむしろステンレスのほうが耐腐食性に優れる可能性があるという情報もあります。

この情報は、先ほどのヘリックスジャパン社における「チタンとステンレスの比較テスト」の結果を裏付けていますね。

「アルカリ水電解」の電極には、チタンよりもステンレスのほうが適している可能性があるってことね。
「ステンレスは危険」という話は色々な意味でナンセンス?
というわけで、水素吸入器の電極の材質の話をするなら、まず
PEM式なのか?アルカリ水電解なのか?
という区別が非常に重要で、
「ステンレス電極が危険!」という単純な話ではないということですね。
少なくとも、「ステンレス電極=危険」という考えにもとづいて水素吸入器選びをしようとするのは的外れと言えるのではないでしょうか。
個人的には『電極材質について過剰に気にする必要はない』と考えます。
信頼できるメーカーの製品であれば、PEM式にはほぼ間違いなくチタン+プラチナコーティングが採用されているでしょうし、そうでない場合(アルカリ水電解の場合)もハイセルベーターのように「適切な材料が選ばれている」からです。
それよりも、製品そのものやメーカーの信頼性がどうなのか?を重視したほうがいいと考えます。
まとめ
以上、今回は「電極にステンレスを使用している水素吸入器は危険なのか?」というテーマについてお届けしました。
今回の件について調べてみて、改めて感じたのは、ものごとは表面的な情報だけで判断してはいけないということです。
とくに「◯◯は危険!」というようなセンセーショナルな噂は広まりやすい傾向があるので、注意したいですね。
もともと人間の脳はネガティブな情報に反応しやすいという性質があるらしいので、「不正確なネガティブ情報」が広まりやすいのは仕方ない部分もあるのかもしれませんが・・。

でもしっかりと情報を精査することで、今回のように明確な、納得行く答えが得られることもあると思うので、今後もできる限り正確な情報を得られるようつとめていきたいと思います。