先日、あるユーチューバーさんが「ステンレス電極は危険」という主張をされている件で、その真偽について記事にしました。
実は同じユーチューバーさんを含む何人かの発信者の方が、
「水素吸入器は一般的に出回っている分子状水素(H2)のものはNGで、HHOガスのものが優れているのでおすすめ」
という主張もされており、これについても以下のようなご質問をスイスピ宛によくいただきます。
「H2(分子状水素)よりも、水素が原子として存在するHHOガスのほうが多くの面で優れていて、HHOガスの水素吸入器じゃないと大きな効果は期待できない」
という情報がありますが、これについてはどう思いますか?
効果がある水素吸入器を購入したいと思っているので気になっています。
回答としては、
HHOガスについての話は、2007年太田成男教授によってNature Medecine誌に発表された論文以降盛んになった水素医学の流れとは関係なく、科学的な話とは言えないので、なんとも言えません(信じる、信じないのレベルの話)。
ということになるのですが、今回は私がそう考える理由について詳しくご紹介してみたいと思います。
HHOガスの方が優れているという主張
それではまず、
「H2(分子状水素)ガスはNG、HHOガスが優れているのでおすすめ」
という主張の内容について詳しく確認してみましょう。
HHOガスとは?
ところでHHOガスってどんなものなの?
HHOガスの定義について確認してみると、以下のような特徴をもつものとされています。
- 水素が「水素原子が2つ連結した水素分子(H2)」ではなく、「単体の水素原子(H)」として存在している
- 通常、水素は原子としては安定して存在できないとされているが、酸素原子(O)といっしょにあることで、水素原子として安定して存在できるようになっている
→なので、HHOガス(酸素原子と水素原子2個がいっしょになって安定して存在しているガス)と呼ばれている
通常「水素ガス」というと分子状水素(H2)の気体のことを言いますが、分子ではなく原子の水素が安定して存在している気体ということ(主張)ですね。
一般的な「水素酸素混合ガス」ではない
ちなみにHHOガスは「HHOガス(水素酸素ガス)」と表記されることもあるようですが、一般的な「水素酸素混合ガス」とは異なるので注意が必要です。
一般的な「水素酸素混合ガス」の水素吸入器としては、たとえばがん治療で成果をあげている『くまもと免疫統合医療クリニック』などで使用されている「ハイセルベーターET-100」などがありますが・・
これらは「分子状水素+分子状酸素」の水素酸素混合ガスなので、原子状水素と原子状酸素からなるとされるHHOガス(水素酸素ガス)とは異なります。
呼び方が似てるから気をつけないとね。
「HHOガスのほうが優れていて、H2はよくない」その理由とされていることとは?
さて、主張によると、
「通常のH2ガス(分子状水素のガス)ではなくHHOガスを出すことができる水素吸入器があって、そのほうがずっと優れている」
とされています。
その「理由とされていること」として、以下の内容が語られています。
水素が体内でヒドロキシルラジカル(悪玉活性酸素)に作用するためには、水素分子のままでは効果がなく「水素原子」である必要がある
水素分子(水素原子が2個くっついたもの)を体内に取り込んだ場合、体内の酵素(ヒドロゲナーゼ)を使用して2個の水素原子に分ける必要がある
このように水素分子を取り込んだ場合、体内の酵素を使用するというプロセスが必要だが、水素原子の形で取り込めば酵素が不要なため、効率がよい
さらに水素分子を分割して水素原子にする体内の酵素(ヒドロゲナーゼ)は加齢とともに減っていくため、高齢者は水素分子を取り込んでも有効に活用ができないが、水素原子を取り込めば活用できる
「だから水素原子をそのまま取り込めるHHOガスのほうが優れている」というわけですね。
なるほど〜 この主張をみると、一応筋は通っているようにみえるね。
「HHOガスのほうが優れている」という主張への回答
では上記の内容について、本当にそう言えるのか?見ていきましょう。
❶ 2007年以降の水素医学の流れはすべて水素分子を扱ったもの
まず最初に強調しておく必要があるのが、
2007年の太田成男教授によるNature Medicine誌に発表された論文以来盛んになっている水素医学の研究、その世界で1500を超える論文のすべては「水素分子の効果」についてのものであって、水素原子についてのものではない。
ということです。
慶應義塾大学等での先進医療として用いられていたのも、がん治療で成果をあげているくまもと免疫統合医療クリニックなどで用いられているのも、すべて「水素分子」です。
そして私が知る限りですが、これまで「水素原子がこれこれのメカニズムで人体に効果を発揮する」という論文等をみたことがありません。
「主張❶」にある「水素原子のかたちでこそヒドロキシラジカルを無害化できる」という話も個人的にはみたことがありません。
ですので「HHOガスにこれこれの効果がある」という主張については、まず
「論文等が確認できないのでなんとも言いようがない」
というのが正直な答えになります。
太田成男日本医科大学名誉教授もご自身のサイトのなかで
原子状水素についての話は、私の研究対象である分子状水素(H2)とは無関係です。
という内容のことを述べられていますね。
❷そもそもHHOガスは科学的に存在が実証されていない
そしてもうひとつ大きな問題として
(水素が原子として存在しているとされる)HHOガスは、科学的にその存在が実証されていない
ということがあります。
これは一般的に「水素は原子としては非常に不安定なため、水素原子としては安定して存在できない」といわれていることもありますし、
何よりHHOガスをすすめているユーチューバーさん本人が動画の中で
HHOガスの存在は科学的には証明されていません。
(でも私は存在を確信しています)
と言ってしまっているんですよね。汗
「科学的には証明されていないが、存在を確信できる理由」としてユーチューバーさんがあげられていた実験があるのですが、その内容も、
「HHOガスを出す(とされる)機械で出てきた気体をペットボトルにしばらくの間(どれくらいの期間かは忘れたけど)入れておいたら、内側に水滴がついた」
というだけの話で、エビデンスとするにはあまりにも貧弱だと感じました。
「HHOガスを出す」という水素吸入器の原理も不明
そのため当然といえば当然ですが、「HHOガスを出す」といわれている水素吸入器の原理についても
「ある特殊な電気分解をすることで・・」
というあいまいな説明しかされておらず、科学的に検証のしようがありません。
ちなみにユーチューブで「HHOガスの研究開発をしている」という方が出てきましたが、この方の経歴を確認すると「建築工学科卒の一級建築士」で、基礎科学等のトレーニングを受けられているようには見受けられませんでした。
❸「水素分子を分割する」という酵素【ヒドロゲナーゼ】は、哺乳類細胞にはもともと存在していない
また、主張によると
水素分子(H2)はそのままでは役に立たず、体内の「ヒドロゲナーゼ」という酵素によって水素原子(H)に分割される必要がある
水素分子を分割して水素原子にする体内酵素「ヒドロゲナーゼ」は加齢とともに減っていき、70歳では若者の5%にまで落ち込む
とされています。
この点について調べてみると、
そもそもヒドロゲナーゼは哺乳類細胞には存在していない(!)
ことがわかりました。
水素研究の第一人者である太田成男日本医科大学名誉教授が会長をつとめる「日本分子状水素普及促進協会」のHPには以下のようにあります。
哺乳類細胞には、ヒドロゲナーゼはありません。いくつかの哺乳類やヒトの遺伝子の全塩基配列が既に決定されていますが、ヒドロゲナーゼの遺伝子は見つからなかったので、哺乳類細胞には、H2に作用する酵素は存在しないと結論できます。そのため、H2がヒトの細胞でさまざまな効果を発揮するのは、酵素とは無関係です。
日本分子状水素普及推進協会 水素に関するQ&A
水素が体内で効果を発揮するメカニズムがすべて明らかになっているわけではない、と先ほど書きましたが、「水素分子を分解する酵素とは無関係」ということはわかっているんですね。
ていうことは、「水素分子を体内酵素で水素原子にして・・」うんぬんの話は誤りってことね。。
この点からも、「HHOガスというものがあって、H2ガスよりも優れいている」という主張には疑問点があることがわかると思います。
口コミでは効果がでているようだけど・・?
ちなみに「HHOガスを出すとされている水素吸入器」の口コミなどをみると、これらの吸入器を使って効果が出ているような様子が見受けられます。
ただこれまで見てきたように、これが「H2ガスではなくHHOガスだから」という証明は科学的にできていない状況なので、効果があったという口コミを見ても
普通にH2ガスの効果なのでは・・?
と思えてしまいます。
少なくとも「効果があったという口コミがある=HHOガスにこそ効果がある」とは言えないのは明らかではないでしょうか。
まとめ
以上、今回は水素吸入器についての「分子状水素(H2)ガスはNGで、HHOガスが優れている」という主張について検証してみました。
まとめると、
- 2007年以降盛んになった水素医学における、世界で1500を超える研究論文はすべて水素分子(H2)についての話なので、水素原子(HHOガス)の話については「エビデンスがない」「なんとも言えない」
- HHOガスの存在は科学的に実証されていない
- HHOガスの優位性を訴える理由となっている「体内酵素ヒドロゲナーゼ」の話には誤りがある(ほ乳類細胞には存在しない)
ということでした。
基本的に「科学的にその存在が実証できていないガス」についての話なので、そもそも科学的にどうこう言えるものではない(=信じる・信じないの話)と思います。
水素吸入について調べている方の参考に、少しでもなれば幸いです。