家庭用の水素吸入器は、健康や美容の分野で注目を集め続けています。
しかし、その一方で
爆発のリスクがあるのでは?
といった不安の声も聞かれます。
そんな中、あるメーカーは独自の研究論文で『市販の水素吸入器の爆発リスク』を指摘しており、それを元に「自社製品以外の製品には爆発リスクがある!」と主張しています。
この記事では、その研究内容を詳しく検証するとともに、東京消防庁の実験データや業界団体の基準もご紹介しながら、水素吸入器の安全性について考察してみたいと思います。
安心して使える水素吸入器を選びたい!
という方は、ぜひ参考にしてみてください。
水素が爆発する条件とは?
まず、水素が爆発リスクを持つ条件について確認してみましょう。
水素はその高い可燃性から「危険なガス」と見られがちですが、ある一定の条件がそろわない限り爆発することはありません。
その条件とは以下の3つです。
① 爆発範囲内の濃度で水素ガスが存在する
水素は、空気中濃度が『約4%〜75%』の範囲にあるときに、爆発する可能性があります。
濃度が低すぎても、高すぎても爆発は起こりません。
② 酸素(空気)が存在する
水素だけでは爆発せず、酸素(空気中の酸素)と混ざることで、初めて燃焼や爆発が可能になります。
このため、水素ガスが密閉されている場合や、酸素の供給がない場合は、爆発のリスクがありません。
また、水素と酸素の割合が2:1で存在する混合気体は、大きな爆発を引き起こす可能性を持つため「爆鳴気」と呼ばれ、特に取り扱いには注意が必要とされています。
③ 着火源がある
火花や炎、静電気などのエネルギーが爆発のきっかけ(着火源)になります。
特に静電気火花は日常的に発生する可能性があるため、注意が必要です。
この3つの条件がすべてそろうと、爆発する可能性が出てくるということね。
水素には「拡散しやすい」という特徴も
水素の爆発について考える際には、条件①「爆発範囲内の濃度(4または10%〜75%)」の成立を難しくする「水素の拡散しやすさ」にも注目する必要があります。
水素は非常に軽く拡散しやすいため、漏れても滞留しにくく、危険濃度が維持されにくいという特徴があるんですね。
水素には、空気より軽く、拡散のスピードが非常に速い性質があるため、漏れても瞬時に上方に拡散して引火の危険性は低くなります。
水素とは|水素事業 – ENEOS
このような特性により、一定の条件では爆発のリスクが軽減される可能性もあります。
では以上を踏まえて、水素ガス吸入器の爆発リスクを指摘した研究についてみていきましょう。
市販の水素吸入器の爆発リスクを指摘した研究
この研究は水素吸入器メーカーでもある株式会社MiZが、慶応大学ならびにカリフォルニア大学バークレー校と共同で行ったもので、市販の水素吸入器の爆発リスクを指摘し、自社製品の安全性を訴えるものとなっています。
この研究内容の検証が、
「市販の水素吸入器は安全なのか?」
「どのようにリスクを評価すればいいのか?」
を私たちが判断するためのたたき台になると思います。
市販の水素吸入器(おおまかに2種類にわけられる):どちらのタイプも危険だと指摘
市販の水素吸入器のほとんどは、
- 発生するガスの水素濃度:約99-100%(水素ガスのみ生成するタイプ)
- 発生するガスの水素濃度:約66%(水素:酸素の割合が2対1の混合ガスタイプ)
この2種のどちらかにわけられます。
この研究では、実際に市販の水素吸入器にたいし「着火実験」を行った結果、上記いずれのタイプの水素吸入器も「爆発した」としています。
水素ガス濃度が99%のタイプは「4〜75%の爆発範囲濃度」じゃないけど爆発したの?
そうだね。発生時は99%でも、空気と混ざる途中で濃度が下がり、「爆発範囲濃度」に入ってしまうためだろう、と考察されているよ。
MiZ社の機器だけは安全だという理由
そしてMiZ社の機器は「水素ガス発生直後にポンプで風を送り水素濃度を薄めることで、爆発範囲濃度に入らないようにしている」ことで、他の水素吸入器とは違い安全だとされています。
▲水素発生直後にポンプで空気を送り、水素濃度を下げる仕組み
たしかにこのMiZ社の機器の仕組みであれば安全性は高そうです。
ただ、もしMiZ社の指摘どおりだとすると、市販のほぼすべての水素吸入器は爆発のリスクがあり、安全面でNGということになってしまうのですが、本当にそうだと言えるのでしょうか?
ここからはMiZ社の主張について、以下の3つの角度から検証していきたいと思います。
❶「市販の水素吸入器は爆発する」とした実験環境について
MiZ社の研究では、市販の水素吸入器を使った着火実験を行い、「爆発が発生した」としています。
ただ、具体的な実験条件について、ちょっと気になる記載がありました。
after it was turned on, transparent smoke was emitted continuously from the hydrogen gas discharge port.
「(水素吸入器のスイッチをONにして)着火すると、水素ガスの吐出口から透明な炎が出続けた」
この「炎が出続けた」という記載から読み取れるのは、この「着火実験」が、
バーナーなどの「継続的な炎」によって、文字通り「着火」した
ものではないか、ということです。
静電気によるリスクと、継続的な炎によるリスクは異なるのでは?
家庭で水素吸入器を使用する際、最も現実的に考えられる着火リスクは「静電気」や「偶発的な火花」によるものだと思います。
(ほとんどの水素吸入器の取扱説明書には「火気厳禁」と記載されており、正しく使用する限り、継続的な炎が供給されるという場面は考えにくいです)
静電気等による「一瞬のエネルギー」とバーナーなどによる「継続的エネルギー」の違い
そして『静電気のような一瞬の着火リスク』と、『バーナーなどによる継続的な炎のリスク』は、その特性や影響範囲が大きく異なります。
もちろん静電気でも、条件によっては一瞬でガスを着火・爆発させる可能性がありますが、エネルギーの供給が瞬間的であるため、その影響範囲が限られる可能性も大きくなります。
一方で、バーナーのような継続的な炎を使用すると、以下のようなリスクが生じます。
- エネルギー供給が持続することで影響範囲が拡大
周囲の可燃性ガスを連鎖的に燃焼させることで、爆発の規模が大きくなる可能性がある。
- 爆発範囲の広がり
炎が持続的に供給されることで、変動し続けるガス濃度が爆発範囲に入るリスクが高まり、爆発を起こす範囲が広がる可能性がある。
こうした違いを考えると、この実験が「継続的な炎」を用いたものだった場合、家庭で想定される着火リスクとは異なり、現実の使用環境を反映しているとは言いにくいのではないでしょうか?
もちろん、一般に「火気厳禁」とされている水素吸入器を「危険な方法で使用すると、爆発するリスクがある」ことを確認したという点では評価できると思います。
続いて、より現実的な、家庭での使用場面におけるリスク評価の参考となる『東京消防庁による防火安全性評価試験』について見ていきましょう。
❷東京消防庁が行った水素吸入器の安全性についての実験
家庭用水素吸入器の安全性を検証するため、東京消防庁と株式会社ヘリックスジャパンが行った安全性評価実験があります。
この実験は、実際の家庭環境に近い条件で水素濃度(着火リスク)を確認したもので、信頼性の高いデータを提供しています。
使用された機器
実験に使用されたのは、「ハイセルベーターET100」という水素酸素混合ガスを発生させるタイプの吸入器です。
ET100の水素ガス発生量は1200ml/分となっており、家庭用の水素吸入器としては流量が多い部類に入ります。
実験環境
実験は以下の条件で実施されました。
- 空間サイズ: 極小空間(0.9m × 0.9m × 1.8m)
- 排気孔の設置: 空間内にいくつかの排気孔を設置し、家庭環境における自然換気や不完全な換気状況を再現
この設定により、狭い空間で水素が滞留する可能性や濃度上昇リスクを評価しました。
実験結果
実験の結果、空気中の水素ガス濃度が1%以上になることはなく、爆発範囲(4%〜75%)には達しないことが示されました。
このことから、
意図的に着火源を近づけるなどせず、通常の使用環境下で適切に使用する限り、爆発リスクは極めて低い
ことが示されたといえるでしょう。
爆鳴気タイプを用いた実験の意義
この実験で使用されたET100は、水素酸素混合ガスを発生させるタイプです。
この混合ガスは水素と酸素の比率が2対1で、爆発時により高いリスクを持つ「爆鳴気」と呼ばれるものであり、水素ガスのみを出すタイプよりリスクが高いと考えられます。
が、それでも安全性が確認されたことは注目できると思います。
水素ガスのみを出すタイプであれば、さらにリスクは低いと言えるかもしれません。
次のセクションでは、業界団体「日本分子状水素普及促進協会(JHyPA)」が定める認証基準についてご紹介します。
❸日本分子状水素普及促進協会(JHyPA)が定める認証基準と高流量のリスク
水素研究の第一人者である太田成男日本医科大学名誉教授が会長を務める業界団体「日本分子状水素普及促進協会(JHyPA)」は、信頼性の高い水素吸入器の認証基準を定めています。
その中で特に注目すべきポイントとして、水素ガスの流量に関連した安全基準が挙げられます。
JHyPAの認証基準では、水素ガス発生量:200〜600ml/分未満のPEM式水素吸入器は(基本的に)無条件で認証される一方で、水素ガス発生量:600ml/分以上の機器については、追加の安全対策が求められています。
これは、流量が多いほど爆発リスクが相対的に高まる可能性を考慮しているためです。
では、水素ガスの流量が多いとどのようなリスクが具体的に上昇するのでしょうか?
流量(水素ガス発生量)増加による2つのリスク
流量が増加した場合に起こり得る2つのリスクを挙げてみましょう。
❶ 爆発が起こる可能性が高まる
流量が多いと、水素ガスの拡散が追いつかず、局所的に濃度が上昇しやすくなります。
これにより、空間内で爆発危険濃度(4%以上)に留まる可能性が高まります。
その結果、着火源が存在した場合に爆発が発生するリスクが増大します。
❷ 爆発の規模の拡大
流量が多いと、爆発性雰囲気(爆発しやすい状態の範囲)が広がり、燃焼可能なガスの体積が増えます。
これにより、燃焼エネルギーが大きくなり、爆発の影響範囲が拡大する可能性があります。
(※ただし、爆発の規模は濃度や空間の形状にも左右されるため、流量だけで一概に判断することはできません。)
多すぎる流量の機器は、よりリスクが高まる可能性
このように、多すぎる流量(水素ガス発生量)の機器は、相対的にリスクが高まる可能性があります。
先ほどのハイセルベーターET100は水素ガス発生量1200ml/分ですが、現在市販されている水素吸入器のなかには、3,600ml/分や4,800ml/分などの機器も存在します。
ここまでの大量の水素吸入については、健康面への効果についても「多ければ多いほどいいとは限らない」という話もありますし(参照記事:水素吸入器の水素ガス発生量、最適なのはどれくらい?【要注意】多ければいいとは限らない)、安全面でもちょっと注意が必要・・ということになるかもしれません。
上記の結論として、何が言えるか?
これまでの検証から、以下のようなことが言えるのではないでしょうか。
まず、MiZ社の研究が示すように、水素吸入器について「どんな使い方をしても完全に安全だ」とは言い切れません。
少なくとも、取扱説明書に記載されている「火気厳禁」を守ることは、使用する上で不可欠です。
実際、業界団体である日本分子状水素普及促進協会(JHyPA)の基準でも、この点が強調されています。
一方で、東京消防庁の実験やJHyPAの基準から考えると、適切な使用環境下であれば、リスクはかなり低いと言えるのではないでしょうか。
特にJHyPAが基準としている「流量600ml/分未満」の水素吸入器であれば、より安全性が高いと考えられます。
ただし、流量が数千ml/分を超えるようなタイプについては、ガス濃度の滞留や爆発の影響範囲が広がる可能性があり、相対的にリスクが高くなると言えるでしょう。
また、一般論として、水素酸素混合ガス(いわゆる「爆鳴気」)のタイプは、水素ガスのみを発生させるタイプよりも、爆発時のエネルギーが高くなるため、リスクが高い可能性があります。この点も選択時の参考になるかもしれません。
こうした情報を踏まえながら、リスクを十分に理解しつつ、安全な製品を選び、取扱いに注意していくことが重要だと考えます。
まとめ
以上、今回は水素吸入器の爆発リスクについて、MiZ社の研究や東京消防庁の実験、業界団体JHyPAの基準をもとに詳しく考察しました。
ポイントとしては以下の通りです。
- 「どんな使い方でも完全に安全」とは言えない
水素吸入器は、火気厳禁をはじめとする基本的な使用ルールを守ることが重要です。これらを怠ると、リスクが生じる可能性があります。
- 適切な製品と使用環境であれば、リスクはかなり低いのでは?
特にJHyPAの基準である600ml/分未満の流量を持つ製品や、東京消防庁の実験で安全性が示された条件下では、リスクは非常に低いレベルに抑えられると考えられます。
- 流量が多い製品には注意が必要
流量が多い機器では、ガス滞留や爆発時のエネルギーの観点から、リスクが相対的に高くなる可能性があります。
水素吸入器を選ぶ際には、以上のような情報を参考にしながら、ご自身の使用環境に合った製品を慎重に選ぶことが大切だと思います。
また、使用時には取扱説明書をよく確認し、安全性を確保するための注意点をしっかり守りましょう。
「安全に、そして安心して」水素吸入器を活用していけるよう、この記事が少しでも参考になることを願っています。