もうすでに2年前の話ですが、このようなニュースが出たことがあります。
水素吸入が新型コロナ治療の選択肢になりえる、っていうニュースね。
新型コロナウイルス感染症は2023年の5月8日に「5類感染症」という位置づけに変更されて以降、ニュースでの報道もめっきり減っていますが、SNSなどを見るとまだまだ根強く残っているようです。
そこで今回はあらためて、どういうわけで水素吸入がコロナ治療の選択肢になりえるのか?、その一部を解明した慶応大学医学部の研究について確認してみたいと思います。
水素吸入は中国で正式に新型コロナの治療法として認められた
慶応大学の研究について見ていく前に、まず事実として確認しておきたいのが
中国では2020年の時点で「対新型コロナウイルス肺炎」の標準治療として水素吸入を正式に導入していた
ということです。
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中国では2016年ごろから気道狭窄と慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対して水素吸入による効果的な結果が得られていたことから、2020年に発生した新型コロナ肺炎にも水素酸素アトマイザーをいちはやく利用したようですね。
その結果、患者の症状に明らかな改善が見られることがわかったことから、非常にスピーディに「国家医療機器」として認定された機器が数千台規模で導入され、水素吸入が「新型コロナ肺炎の標準治療」として「対新型コロナウイルス肺炎診療方案(第7版)」に正式に記載されることになったのです。
2020年当時の中国のスピーディな対応にはびっくりした記憶があります。
今回の慶大の研究は、なぜ新型コロナ肺炎に水素吸入が有効だったかを説明する
今回の慶大の研究は、上記のような中国での状況(水素吸入が新型肺炎に有効だったこと)がなぜ起こったのか?その作用機序(の一部)を説明するものとなっています。
その概要を見ていきましょう。
慶大の研究の概要
慶應義塾大学のプレスリリース:
「水素は活性化した好中球の NETs 産生を抑制し炎症反応を改善する」
「好中球」というのは病原体を食べて体を守る白血球の一種で、
「好中球内部のDNAが網状に放出され、病原体を絡めとる現象」
のことを「好中球細胞外トラップ」(Neutrophil Extracellular Traps:NETs)と呼びます。
文字通り、物理的に病原体をからめ取るわけね。
好中球細胞外トラップ(NETs)は体への病原体の侵入にたいしては有効な防御策になっているのですが、一方で過剰に発動すると「炎症性疾患」「自己免疫疾患」「血栓性疾患」等の要因にもなってしまいます。
実際に新型コロナウイルス感染患者の血液中の好中球ではより多くの「好中球細胞外トラップ(NETs)」が産生されていて、肺の傷害や血栓の形成に深く関与していることが知られているらしいです。
今回の研究ではマウス・豚・人の好中球細胞を使用した実験により、過剰な好中球細胞外トラップ(NETs)の産生が、水素によって抑制されることが明らかになりました。
研究の成果と意義
このような結果を受け、プレスリリースは以下のように結ばれています。
NETs は、敗血症や COVID-19 に伴う急性呼吸窮迫症候群や肺の微小血栓形成などの重篤な病態に関与しています。また、NETs は、急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症、アテローム性動脈硬化症など、いくつかの心血管疾患の病因にも関与しています。
慶應義塾大学のプレスリリース:
水素は、感染性疾患から非感染性疾患(Non-Communicable Diseases;NCDs;注 4)生活習慣病炎症を改善することが、臨床でも動物実験でも示されてきましたが、その作用機序に関しては未だ十分には解明されていませんでした。
今回の研究によって、水素吸入療法がNETsの形成・放出や好中球の過剰な活性化を抑制し、炎症を改善するための有効な選択肢となり得ることが示されました。
「水素は活性化した好中球の NETs 産生を抑制し炎症反応を改善する」
というわけで、敗血症や新型コロナによる急性呼吸窮迫症候群や微小血栓形成などの深刻な疾患に関与している過剰な好中球細胞外トラップ(NETs)を、水素が抑制する可能性が明らかになったわけですね。
好中球細胞外(NETs)は他にも心筋梗塞や血栓疾患、動脈硬化などの原因にも関与しているそうなので、水素の可能性はさらに広がっていくかもしれません。
研究に使用された水素吸入器について
ちなみに今回の研究では、株式会社ドクターズ・マンの「H2JI1」という水素吸入器が使用されました。
H2JI1は
- 水素ガス発生量250ml/分
- 水素純度99.999%
- 水素発生電解セルの耐久性50,000時間
- 24時間連続運転可能
という、業務用として優れた性能をもった水素吸入器です。
中国は水素酸素混合ガスだが、今回の実験は水素ガスのみ
個人的に今回の研究で興味深いと感じたのが、中国で新型コロナ対策の医療機器として指定されたのは「水素酸素混合ガス」のタイプだったのにたいし、実験で使用された水素吸入器H2JI1は「水素のみ」のタイプだったということです。
「水素酸素混合がいいのか、水素のみがいいのか」という問題にはまだ明確な回答はでていないと思うのですが、今回の研究から言えるのは
「中国で新型コロナ対策に正式に採用されたのが水素酸素混合だからといって、水素酸素混合のほうが良い」とは必ずしも言えない
ということです。
今回は水素ガスのみで、好中球細胞外トラップ(NETs)による炎症を抑えるはたらきが観察されたわけですからね。
この観点からも、今回の慶應義塾大学のプレスリリースの意義は高いものがあるな、と感じました。