水素ガスの研究により、その抗酸化作用や抗炎症作用は知られるところとなっていますが、運動パフォーマンスの改善効果についても研究がすすめられています。
今回はそんな研究のひとつをご紹介してみたいと思います。
昭和大学スポーツ運動科学研究所によって行われた、『高濃度水素+酸素ガス吸入が、下肢の血流動態、筋柔軟性、関節可動域、運動パフォーマンスに与える影響』を検証するための研究です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/51/4/51_12478/_article/-char/ja
研究の背景
これまでの水素ガス研究のなかで、水素ガスによる「血流改善効果」が示唆されています。
(参考)水素水(水素水サーバー生成水)の単回摂取による毛細血管血流に及ぼす影響-プラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー比較法-
また「血流改善」と「運動パフォーマンス」の関係については、
下肢の血流改善→関節の可動域が改善→運動パフォーマンス向上
という関係をしめす研究があります。※1
※1:
・水野貴正,中野匡隆,他:人工炭酸泉浴が関節可動域と筋
の弾性に与える影響.日生気誌.2011; 48: 15–22.
・畠山隼平,森山英樹,他:経皮的炭酸ガス吸入療法が関節
可動域に及ぼす効果.専門リハビリ.2020; 19: 21–28.
こうした背景から、
水素ガス吸入によって、血流改善効果、またそれにともなう運動パフォーマンスの向上がもたらされるのではないか?
という仮説のもとに行われたのが今回の研究です。
具体的な研究内容
今回の研究では、健常な成人男性10名を対象に、高濃度水素+酸素ガスを吸入し、その後の下肢の血流動態や筋肉の柔軟性、さらに関節の可動域にどのような影響があるかを検証しました。
また、運動パフォーマンスの指標として、垂直飛び高も測定されています。
研究手順
研究の手順は以下の通りです:
- 水素ガス吸入:高濃度水素(68%)と酸素(32%)の混合ガスを1時間にわたって吸入しました。吸入後、被験者の下肢の血流や柔軟性、運動能力が計測されました。
- 計測項目:
- 血流速度:膝の後ろにある膝窩動脈(しつかどうみゃく)で、血管径と血流速度を超音波診断装置で測定。
- 筋柔軟性:脚をまっすぐ上げる角度(SLR角度)や、膝を曲げた時の踵と臀部の距離(HBD)を測定。
- 関節可動域:足首の前屈と底屈の可動域を測定。
- 運動パフォーマンス:垂直飛びの高さをデジタル測定器を用いて計測。
- 比較:高濃度水素+酸素ガスを吸入した後の数値と、プラセボ(大気を吸入した場合)の数値を比較しました。
研究ではヘリックスジャパン社の「ハイセルベーター」を使用
ちなみにこの研究では、株式会社ヘリックスジャパンの水素酸素混合ガス吸入器「ハイセルベーター」シリーズの製品が使用されましたそうです。
この水素吸入器はがん治療においても活用されており、実際に「くまもと免疫統合医療クリニック」などの医療機関で導入されています。
(参考)ハイセルベーターET120(ET100/HX90/PF72)を体験してみた!|医療にも活用されているヘリックスジャパンの水素吸入器口コミ体験談
研究の結果
この研究では、いくつかの重要な結果が確認されました:
- 血流速度の向上:高濃度水素+酸素ガスを吸入した後、膝窩動脈での血流速度が有意に向上しました。これは、水素ガス吸入が末梢の血流改善に寄与する可能性を示唆しています。
- 筋柔軟性や関節可動域:筋柔軟性や関節可動域については、今回の短期的な研究では顕著な改善は見られませんでした。
運動パフォーマンスの一環である垂直飛び高についても大きな変化は確認されていません。
血流の改善はみられたけど、それにともなうという仮説だった「関節可動域の改善」「運動能力の向上」まではみられなかったということですね。
研究の意義と今後の展望
今回の研究では、高濃度水素+酸素ガス吸入が血流速度に与えるプラスの効果が確認されました。
血流の改善は、特に疲労回復や酸化ストレスの軽減に関与するため、スポーツ選手やリハビリ中の患者にとって重要な発見といえます。
ただ、短期間での筋柔軟性や関節可動域、運動パフォーマンスに対しては明確な改善が見られなかったことから、今後は以下の課題も考慮する必要があるかもしれません。
今後の研究課題
1.水素ガス吸入の長期的な効果
今回の研究では短期的な効果が中心となっていますが、水素ガス吸入を長期間にわたって使用した場合、筋柔軟性や関節可動域にどのような影響を与えるかについては、さらなる調査が必要です。
長期的なリカバリー効果や運動パフォーマンスへの貢献が明らかになれば、水素ガス吸入が日常的なケアやトレーニングに導入される可能性が広がります。
2.最適な水素ガス濃度の検証
研究で使用されたのがハイセルベーターシリーズのどの機種かはわかりませんが、ハイセルベーターシリーズの水素ガス発生量は
水素ガス発生量:850〜1300ml/分
となっています。
この水素ガス発生量の決定は使用した機器に依存しており、「この量が適量だからこの量にした」というわけではないはずです。
つまりこの水素ガス発生量が最適かどうかは未確定ということですね。
今後、異なる水素ガス発生量や吸入時間を比較することで、より効果的な水素ガス療法の開発が期待されます。
また、今回は水素+酸素の混合ガスですが、「水素ガスと酸素ガスのほうがいいのか、水素ガスのみのほうがいいのか」という問題についても引き続き研究が必要だと思います。
(参考記事)
・水素吸入器の水素ガス発生量、最適なのはどれくらい?【要注意】多ければいいとは限らない
・水素吸入器は「水素ガスのみ」と「水素酸素混合ガス」どちらがいいの?|水素吸入器の選び方
まとめ
今回の研究は、水素ガス吸入が『運動パフォーマンスや身体機能』にどのような影響を与えるかを探るための重要なステップとなりました。
特に血流改善効果が確認されたことは、スポーツ選手やリハビリ中の患者にとって大きな希望となるでしょう。
しかし、筋柔軟性や運動パフォーマンスへの直接的な効果についてや、最適な水素ガス発生量についてはさらなる研究が必要です。。
今後の研究で、最適な水素ガス濃度や長期的な使用効果が解明されれば、水素ガス吸入は日常の健康管理やスポーツのリカバリー方法としてさらに広く普及していくかもしれません。