スイスピにたまにいただくお問合せで、「PEM式の水素吸入器は危険なのですか?」というものがあります。
PEM式とは水の電気分解によって水素を発生させる方式のひとつで、PEM(Polymer Electrolyte Membrane=固体高分子膜/イオン交換膜)を使った還元反応で水素を発生させます。
特徴として
- 生成される水素の純度が非常に高い
- 装置がコンパクトで済む
という点があり、多くの水素吸入器でPEM式が使われています。
具体的には、
ある水素吸入器のサイトで、
「PEM方式も含め、他社が採用しているイオン交換膜を使った製品は工業用の水素発生方式であり、人には使用できない」
と書かれていて、その方式を使った製品で中国で実際死者が出たというニュースも写真つきで紹介されていて、とても不安になっています。
といった内容のお問合せです。
↓こちらのサイトに書かれている内容みたいですね。
https://suifeel.jp/news.php?id=58
PEM式の水素吸入器というと、現在日本で市販されている多くの水素吸入器がPEM式を採用していますので「これはなかなか大胆な主張だな」思い、その内容について詳しく検証してみることにしました。
結論としては、
かなりの部分で、事実関係をあいまいにして、誤解を与える結論づけがなされているのでは・・?
と感じています。
今回はその検証の詳しい内容についてご紹介してみたいと思います。
PEM式は危険だという主張
まずは「PEM式は危険」と主張しているサイトに、具体的にどんなことが書かれているのかを確認してみました。
↓こちらのページですね。
「スイフィール」という水素吸入器を扱っている会社のサイトです。
この記事を読むと、ポイントとして以下の内容が語られています。
- 中国では安価で粗悪な「工業用水素発生器」が出回っている
- 実際に工業用水素発生器を使用して死者が出たと報じられている
- PEM式は工業用水素発生器の方式
以上の3点が強調されており、
PEM式は工業用なので危険だ!!
という印象が与えられる記事となっています。
ただ、ていねいに記事の内容を検証していくと、事実関係をあいまいにして、あやまった結論づけがなされているように見受けられました。
その点についてひとつづつ見ていきましょう。
【中国で高齢男性が「工業用水素発生器」による水素吸入を続け死亡の疑い】・・中国の元記事を確認してみた
まずは中国で報じられたというニュースについて、元の記事を確認してみました。
スイフィールの記事には、
小祥朝報は「工業用水素発生器で水素を吸入していた高齢者が死亡」という記事を発表
とありますので、小祥日報の該当記事を確認しました。
↓こちらのページで見ることができます。
記事を確認してみると(私は少し中国語もわかるので、原文でも確認しました)、以下のことがわかりました。
「水素吸入が原因で死亡した」というのは息子さんの主張にすぎず、「本当に水素吸入で死亡したのか?」という検証はまったくない
小祥日報の記事が伝えているのは、
- 75歳の男性が自宅で死亡しているのが、息子さんによって発見された
- 亡くなった男性は普段から水素水や水素吸入をビジネスとして行っている店に出入りして水素吸入をしていた
- 息子さんは「父はあやしい水素吸入というのをしており、騙されているのでやめさせようとしていた」と語った
- 息子さんは「父は水素吸入のせいで死んだ」と主張している
という内容で、さらにこの内容を受けて「水素吸入をビジネスとして行っている店」に、小祥日報の記者が「潜入調査」をした、という記事になっています。
潜入調査の結果、この店はたしかに原価の安い吸入器を高値で売ったりしていて「あやしいビジネス」をしている可能性がうかがえます。
が、どこにも「この75歳の男性は本当に水素吸入が原因で死亡したのか?」についての科学的なコメントや考察は一切ありませんでした。
(亡くなった男性は解剖もされなかったとのことで、原因はお蔵入りとなっているようです)
どちらかというと
「父親があやしい水素吸入詐欺に騙されて死んだ」
と思っている息子さんが、
「父は水素吸入に騙されて死んだ!」
と訴えていることを報じるゴシップ的な記事といえます。
記事には「工業用水素発生器」とも「PEM式」とも書かれていない
そして、たしかに男性が使用していた水素吸入器が粗悪品で健康によくないものであった可能性はありますが、それについての検証はいっさい記事にはありませんでした。
さらにどこにも「工業用水素発生器だった」あるいは」「PEM式だった」という記載もありません。
そもそもこの記事のテーマが上記のようなゴシップ的な観点の記事で、水素吸入について科学的な真実にフォーカスをあてたものではまったくないのですよね。
以上のような内容の記事をもとに「工業用水素吸入器で人が死んだ!」というセンセーショナルな結論にもっていくのは少々強引かな、と感じました。
スイフィールの記事の主張「PEM式は工業用で危険」は本当か?
スイフィールの記事では、上記の中国の報道とからめて、「PEM式は工業用の方式なので危険」と訴える内容となっており、
「(危険な)工業用水素発生器の2つの原理」として、
- PEM式を含むイオン交換膜電解方式
- アルカリ水電解方式
をあげています。
つまり「PEM式を含むイオン交換膜電解方式」(さらに「アルカリ水電解方式」も)は工業用なので危険、としているのですが、この主張は正しいと言えるのでしょうか?
慶應義塾大学の研究で使用されているPEM式の水素吸入機メーカーに聞いてみた
実は日本で市販されている水素吸入器の多くがPEM式を採用しています。
なかでも代表的な機器として、慶應義塾大学医学部の研究でも使用されている株式会社ドクターズ・マンの「H2JI1」という水素吸入機があります。
そこでドクターズ・マン社に
「PEM式は工業用で危険」という主張がありますが、H2JI1は大丈夫なのでしょうか?
と質問してみました。
その返答がこちら。
H2JI1の水素発生方式はPEM式ですが、もちろん工業用としてではなくヘルスケア用に製造されています。
また慶應大学はじめとした共同研究などで、H2JI1の安全性につきましては確認・担保されております。
先進医療として水素ガス吸入療法を行っていた慶応大学で研究に使用されていただけに、当然安全性は確認されているということですね。
PEM式の水素吸入器「H2JI1」の水素純度は99.999%と非常に高い(=安全性が高い)
たしかに、H2JI1から発生するガスの水素純度は99.999%を誇っています。
これは「水素以外の不純物がほとんど含まれていない」ことを意味しており、有害物質が含まれないので有害になりようがない、ということなんですよね。
これひとつとっても、「PEM式=危険」というのは誤ったイメージなのがわかります。
「アルカリ水電解方式」の代表は、がん治療に利用され成果をあげているハイセルベーターET-100
スイフィールの記事ではもう一点、「アルカリ水電解方式も工業用=危険」という印象付けがされていますが、アルカリ水電解方式の代表的な水素吸入器は、がん治療で大きな成果をあげているくまもと免疫統合医療クリニックで使用されている「ハイセルベーターET100」です。
ハイセルベーターET100も安全性が確認されているからこそ、治療に組み込まれていると思われますので、「アルカリ水電解方式は工業用の水素発生方式だから危険」というのも無理があるように思います。
以上の点からも、スイフィールのホームページに書かれている
という結論付け(印象付け)は、読者に誤ったイメージを植え付ける表現だといえるのではないでしょうか?
「PEM式は危険」と伝えるもうひとつの記事
スイフィールのホームページには、さらにもうひとつ別に「PEM式は危険」と伝えている記事があります。
https://suifeel.jp/news.php?id=52
そこにはこう書かれています。
イオン膜電気分解(スイスピ注:PEM式を含む)で生成された水素ガスの品質は非常に悪く、膜(フィルム)には有毒性があり、質の悪い水素ガスを発生させるため、それを中長期的に吸入することで、逆に発がん性のリスクを高めたり、人体に様々な悪影響を及ぼす危険性があることが発表されています。
残念ながら日本国内にはSPE電気分解、PEM電気分解、PLM電気分解のイオン膜電気分解を採用している水素吸入器が多く販売されています。製品の安全性を確認できない限り、機器の購入や吸入は絶対にしないようしてください。すでにアメリカでは数千人の方が体調不良や病気発症を訴え、3,000件以上の訴訟問題に発展しています。
出典:07 水素吸入器選びを失敗しないために|水素吸入療法とは?効果効能などを詳しく解説 Suifeel
この文章を読むと、
- PEM式で生成された水素ガスの品質は非常に悪い
- PEM式で生成された水素ガスを中長期的に吸入すると、発がんリスクを高めたり人体に悪影響を及ぼす
- アメリカではそれが原因で数千人が体調不良や病気発症を訴え、3,000件以上の訴訟が起きている
というふうに伝わりますよね。
かなり強烈なPEM式へのダメ出しです。
「数千人が体調不良や病気発症を訴え、3,000件以上の訴訟」が起きてるとしたら、かなりの社会的大問題だよね・・・!
「質の悪い水素ガス」とは?
ここでまず確認したいのは「水素ガスの品質が非常に悪い」という言葉の意味です。
というのは「水素分子(H2)」そのものには質が良いも悪いもなく、人体に悪影響を与えることはないからです。水素分子そのものに質の違いはありません。
ですから「水素ガスの品質の良し悪し」とは
水素分子以外の有害物質が含まれるかどうか?
を意味することになります。
この意味にそってスイフィールのホームページの主張を解釈すると、
ということになりますね。
逆に、「水素分子以外に有害物質が含まれていなければ、(発生方式が何であれ)その水素ガスは安全」と言うことができます。
多くのPEM式で水素ガスの安全性は証明されている
実際にはPEM式を採用している多くの水素吸入器で、発生するガスの成分が公表されており、安全性は証明されています。
先ほどご紹介したドクターズマン社の「H2JI1」もそうですが、単純に「発生するガスの水素純度」(発生するガスに含まれる水素分子の割合)だけ見ても、
PEM式の水素吸入器 | 水素純度 |
---|---|
H2JI1 | 99.999% |
シェルラン・プロ | 99.995% |
ピュアラスキューブプレミア | 99.995% |
Hhuhu【ふふ】 | 99.995% |
このように、軒並み水素純度が非常に高いこと(=水素分子以外の有害物質が含まれないこと)が第三者機関によって測定されています。
PEM式の多くの水素吸入器は、水素純度が高くて不純物すらほとんど混じっていないってことなのね。
「発がんリスクを高め、3,000件以上の訴訟が起きている」という話は本当か? 問い合わせの回答は得られず・・
以上のような事実を見ると、
- PEM式で生成された水素ガスの品質は非常に悪い
- PEM式で生成された水素ガスを中長期的に吸入すると、発がんリスクを高めたり人体に悪影響を及ぼす
- アメリカではそれが原因で数千人が体調不良や病気発症を訴え、3,000件以上の訴訟が起きている
このような話がどこから出てきた話なのか、純粋に不思議に思えます。
「3,000件以上の訴訟」について、調べてみてもそのような情報は得られなかったため、スイフィールのサイトの問い合わせページから「どのような訴訟か、具体的に教えてもらえるでしょうか?」という問い合わせを送ってみたのですが、回答はいただけませんでした。
この「3,000件以上の訴訟」の話については、このあとお話する「デュポン社」の別の訴訟とごっちゃになっているのでは?と個人的には想像しています。
PEM式が危険という根拠?デュポン社の膜の話
もうひとつ、「医療用ではない、工業用のPEM膜は危険」とする根拠として、スイフィールのページではPEM式などで使用するイオン交換膜の「膜」をつくっているメーカーのひとつである、アメリカのデュポン社の公式声明文が紹介されています。
https://suifeel.jp/news.php?id=52
デュポン社による「我が社の製品は医療用には使わないでください」という声明文です。
>>DuPont Medical Caution Statement
https://www.fluoroprecision.co.uk/pdf/medical-statement.pdf
ただし、これはデュポン社の膜が政府等から「危険だから人用・医療用に使用してはいけない」と禁じられたわけではなく、デュポン社自らが「うちの製品は人用には使わないでください」と宣言したものです。
デュポン社がわざわざこのような声明を出しているのは、おそらくですが、デュポン社が以前「テフロンの製造」にまつわる公害訴訟で765億円もの賠償金を支払うことになったという苦い経験があるからだと思われます。
>>デュポン/ケマーズ PFOA 訴訟 6億7,000万ドルで和解 一件落着して世界の規制当局は PFOA 制限を検討
実はこのテフロンの訴訟のときに賠償請求があった人数が約3,500人だったんですね。
このことからスイフィールの記事にあった「有害なPEMにより3,000件以上の訴訟になっている」という話は、このテフロン公害の話とごっちゃになっているのではないかと想像しています。(意図的かどうかはわかりませんが・・)
とはいえ、たしかに人用に使ってはいけないとされている(=工業用?)の膜が水素吸入器のPEMに使用されているとしたら、心配な部分があるのはわからないでもありません。
デュポン社の膜など、工業用の膜が水素吸入器に使用されている可能性はあるのか?
それではこのデュポン社の膜のような「工業用(人用ではない)製品」を使用したPEMが、水素吸入器に使用されている可能性はあるのでしょうか?
この点について、複数の水素吸入器メーカーの関係者の方に話をうかがってみました。
その中でうかがった話としては、
他社の状況はわかりませんし、基本的に企業秘密ということで公開はされていないかもしれませんが、PEMを含む水素を発生させるコア部品については、たとえば中国製の部品を仕入れてそのまま使用しているケースもあり、知らないうちにデュポンなどの膜を使用しているケースはあるかもしれません。
とのことでした。
メーカーも知らずにデュポン社の膜を使ってるかもしれないってこと?
「その可能性もゼロではない」という話だね。
これについては、たとえば「日本製」の水素吸入器だったとしても中の部品は中国製部品ということもあるので、日本製だからといって安心もできないということになります。
最終的にはやはり「水素純度」「含まれている成分」を確認すれば問題ない
ではどのように私たちが判断すればいいかというと、
仮にデュポン社の膜が使われていたとしても、最終的に発生するガスに含まれる成分がすべてです。
発生するガスに危険な物質が含まれていなければ問題はないでしょう。
とのこと。
これはたしかにそうですね。発生するガスの水素純度が100%に近く、有害物質が含まれていなければ問題になりようがありません。
参考までに主なPEM式の水素吸入器の水素純度をあらためてまとめてみると以下のようになっています。
PEM式の水素吸入器 | 水素ガス発生量 | 価格(税込) | 水素純度 |
---|---|---|---|
H2JI1 | 250ml/分 | 2,420,000円 | 99.999% |
シェルラン・プロ | 300ml/分 | 495,000円 | 99.995% |
シェルスラン・エレ | 150ml/分 | 327,800円 | 99.995% |
ピュアラスキューブプレミア | 240ml/分 | 498,300円 | 99.995% |
Hhuhu【ふふ】 | 500ml/分 | 880,000円 | 99.995% |
H2フレスカ150 | 150ml/分 | 217,800円 | 99.9% |
安価な「H2フレスカ150」が水素純度が少し低くなっているのも、もしかするとそれなりの理由があるのかもしれませんね。
まとめ
以上、今回は
「PEM方式も含め、イオン交換膜を使った製品は工業用の水素発生方式であり、人には使用できない」
「その方式を使った水素吸入器により、中国では死者が出た」
という情報について、その真偽を確認してみました。
簡単にまとめると、
- 中国の報道記事はゴシップ的な角度からの記事で、「水素吸入器が原因で死亡した」とは一切科学的に確認されておらず、騙されたと訴えている身内の主張を掲載しただけ
- PEM式で安全な水素吸入器も多数あり、「PEM式は工業用で危険」という主張には無理がある
- たしかに工業用のPEMが使われている可能性はゼロではない
- 良し悪しの判断基準は「PEM式かどうか?」ではなく、発生するガスの水素純度と成分をチェックすること
ということでした。
結論として、スイフィールのホームページの当該記事の内容は、事実関係をあいまいにしたまま話を組み合わせて、「PEM式=危険」という誤ったイメージを伝えてしまっていると思います。
とはいえ、私もまだまだ知らないことがあるかもしれませんし、今回の検証に間違った点もあるかもしれません。
もし新しい情報があれば随時内容は訂正していきたいと思っています。